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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)2878号 判決 1980年12月24日

原告 松本敦子

右訴訟代理人弁護士 中村忠純

被告 西沢弘こと 裵吉功

右訴訟代理人弁護士 井野賢士

主文

一  被告と梵天商事株式会社間の東京地方裁判所昭和五四年(手ワ)第三〇一四号約束手形金請求事件の執行力ある判決正本に基づき、被告のなした別紙物件目録(一)、(二)記載の物件に対する強制執行は、これを許さない。

二  原、被告間の東京地方裁判所昭和五五年(モ)第四二四八号、同第五一三九号強制執行停止決定は、これを認可する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  第二項に限り仮に執行することができる。

事実

一  原告訴訟代理人は、主文一、三項と同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  被告は被告と梵天商事株式会社間の東京地方裁判所昭和五四年(手ワ)第三〇一四号約束手形金請求事件の執行力ある判決正本(以下本件判決正本という)に基づき、昭和五五年三月一三日に別紙物件目録(一)記載の物件を、また、同月二六日別紙物件目録(二)記載の物件を各差押えた。

(二)  しかし、別紙物件目録(一)および(二)記載の物件はいずれも原告の所有に属するものである。

(三)  よって、原告は被告に対し、被告と梵天商事株式会社間の本件判決正本に基づきなした別紙物件目録(一)、(二)記載の物件に対する強制執行はこれを許さないとの判決を求める。

二  被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。原告の請求原因に対する答弁として、「原告の請求原因(一)および(二)記載の事実を認める。」と述べ、更に、抗弁として、次のとおり述べた。

(一)  原告は梵天商事株式会社の代表取締役であるが、梵天商事株式会社は原告が設立した個人会社で、その本店、営業場所も原告個人で他から賃借しているもので、原告と一体をなし、独立した経済的地位を有するものではない。

(二)  このように、原告と梵天商事株式会社とは一体の関係にあるから、法人格否認の法理の適用によって、被告の梵天商事株式会社に対する本件判決正本に基づく、原告所有の別紙物件目録(一)、(二)記載の物件に対する強制執行は有効と解すべきであり、排除されるものではない。

三  証拠《省略》

理由

一  原告の請求原因(一)および(二)記載の事実は当事者間に争いがない。

二  被告は、原告と梵天商事株式会社は一体の関係にあるので法人格否認の法理の適用によって、被告の梵天商事株式会社に対する本件判決正本に基づき原告所有の別紙物件目録(一)および(二)記載の物件に対してなした強制執行は有効であって、排除されるべきではない旨主張するので考えるに、強制執行は判決によって確定された給付義務の内容を実現するものであり、その執行力の範囲は予め債務者との関係で確定されなければならないから、原告と梵天商事株式会社間に法人格否認の法理が適用され、梵天商事株式会社との間で原告の個人財産が独立性、排他性の機能を有しないものとして、被告の梵天商事株式会社に対する本件判決正本の効力は、背後にある実質的責任主体である原告に対してまでは及ばないといわざるをえない。この点につき、確かに、法人格否認の法理の目的達成のために、同法理の適用される場合には債務名義の執行力を拡張し、実体的な会社と個人の関係を訴訟法的にも肯定しようとする被告と同じ考え方もあるが、現行法が訴訟手続と執行手続を明確に区別しているところからみて、右主張のように債務名義の執行力の拡張を認めることには賛成できない。

したがって、被告主張のように、仮に、原告と梵天商事株式会社間に法人格否認の法理が適用されるとしても、原告は、被告が梵天商事株式会社に対する本件判決正本に基づいて、自己所有の財産に対して強制執行をなす限り、この不許を求めるために第三者異議の訴を提起することができるといわざるをえない。

よって、被告の抗弁は主張自体失当である。

三  以上の事実によると、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、執行法三八条四項三七条一項、三六条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口和男)

<以下省略>

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